イベントレポート
AIの進歩は驚異的です。高速なハードウェア開発とデータの利用可能性向上により、AIは複雑な計算や大量のデータ処理が可能になりました。機械学習や深層学習の進展もあり、医療、自動運転、金融など多くの分野で効率性と可能性が向上しています。しかし、倫理的な問題とプライバシーへの懸念も考慮する必要があります。
AIは教育分野に革新をもたらしています。学習者に対して個別のサポートやカスタマイズされた教育を提供し、学習の効果を向上させることができます。また、オンライン学習や遠隔教育においても重要な役割を果たしています。個人情報や倫理的な問題には注意が必要ですが、適切に導入と活用が行われれば、AIは教育の効果を向上させ、学習者の能力開発や教育のアクセス性を促進する可能性を秘めています。
実は、上のセミナー概要はChatGPTを使って生成しました。それなりの文章ができました。
本セミナーでは、昨年秋より一段と加速したスピードで進化する生成系AIとそれを受け入れつつある社会、特に大学での利活用についてご講演いただきます。企業からは、提供されるAI系サービスの最新動向について、ご講演いただきます。パネルディスカッションでは海外動向を含め、各大学のAIとの関わり方や学生の教育など、参加者の皆様と情報交換や意見交換をして、議論を深めていきたいと思います。
発展途上の領域ではありますが、その可能性は広がり続けています。大学と企業が協力し、AI技術の進歩と利活用を促進する人材を育成することで、より持続可能な社会の実現に貢献することを期待します。
- 開催日時
- 2023年 7月 28日(金) 14:00~17:30
- 開催方法
- 会場(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 The AGILE TOKYO)
オンライン(Zoom Webinar) - 主 催
- CAUA
講演内容
オープニング
深澤 良彰氏(早稲田大学理工学術院 基幹理工学部 教授、CAUA会長)
日本の学習指導要領では、学力は3つの要素で評価することになっています。すなわち、「知識および技能」、「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう力・人間性」です。小学校の勉強をみると、「知識および技能」においては、九九や地図記号など覚えることがたくさんあります。何でもChatGPTに聞いてしまっては、自分で覚えようとせず、自分で考えようとしなくなります。「思考力・判断力・表現力」におけるグループでの調べ学習などでも同様です。
一方で、「学びに向かう力・人間性」の勉強である探求は、答えがない問題をみんなで研究して深堀していくものです。こうした創造的思考を問う問題は答えがないので、ここではChatGPTを使った「壁打ち」がとても有効になってきます。答えを探求していく過程で深堀していくことは有益だろうと考えています。特に、中学校、高校と発達段階が進んでくると、ChatGPTが学びの相手として使えるのではないでしょうか。
現在、私のコースの大学4年生が、学校でChatGPTを使うとどんな便利なことがあるか、というテーマで卒業研究に取り組んでいます。たとえば、ChatGPTで学習指導案を作成すると、かなりいい線の指導案を作ります。ただ、いい線の指導案だとわかるには、自分の書いた指導案とよく似ているなどの評価ができることが大前提です。私のコースの学生は、技術と情報の指導案は書いたことがありますが、英語の指導案は書けません。自分が指導案を書いたことがない教科の指導案をChatGPTに書かせたとしても、それがいいのか悪いのか判断できないのです。やはり、ChatGPTの成果物を評価するには、人間に知識が必要であることは間違いありません。
生成系AIにはリスクもあります。EUのAI規制法案(AI Act)では、受容できないAIは禁止であり、潜在意識への操作、子供や精神障害者を相手とする詐欺、社会的スコアの一般的利用、公的空間での法執行目的の遠隔生体認証は、絶対に許されないと謳っています。ChatGPTのような生成系AIは透明性要件に準拠する必要があります。コンテンツがAIによって生成されたことを開示する。違法なコンテンツが生成されないようにモデルを設計する。トレーニングに使用された著作権で保護されたデータの概要を公開する。こういったことが要求されます。
生成系AIは、真実への配慮が限られ偏った情報を出力する可能性があり、子供にこそ深刻であり、不確実性・新規性・安全性のチェックが脆弱である、など人間のユーザーを操作する可能性を強く心配しています。有害なコンテンツ、個人データ・機密データの問題、プライバシーへの影響、さらには教師の権威と地位を損なうということも、リスクとして挙げられています。
広島大学では、修士論文を提出する前に剽窃チェックツールを使って確認しています。学術情報データベースとマッチングして著作物を正当に評価するツールで出したスコアを修士論文とともに提出します。こうしたツールの能力もどんどん上がってくるでしょう。技術はどんどん変わり、新しくなっていきます。これから生成系AIと付き合っていく中でノウハウがたまり、私たちのAIリテラシーも高まっていけばいいと考えています。
【講演】
「Generative AIとMicrosoftの取り組み」
阪口 福太郎氏(日本マイクロソフト株式会社 Education Skills Lead / DX戦略室長)
次に、日本マイクロソフト株式会社の阪口様に、生成系AIのマイクロソフトでの取組とその未来像についてお話いただきました。
無償版のChatGPTを利用すると、データが取られてしまうので、「機密情報を扱うことができない。」こういうNewsや記事が後を絶ちません。Chat GPTに関わらず、一般的に無償のサービスは、そのビジネスモデルから、「データを取得」し、何らかの形でマネタイズするか、その試験的公開から製品の改良に利用されることになる。有償版を利用する場合、(その会社のプライバシーポリシーに依存するが)一般的にデータは取得されることは、ほぼ無い。マイクロソフトの有償版のOpenAIサービスでも同様で、データを取得しないし、監査することもなく、裁判になったとしても日本の司法で行われる。
マイクロソフトではChatGPTを組み込んだCopilotという機能があり、人の意図を理解してコードを生成することができる。アメリカでは、Gitを使っている人のほとんどがAIを使ってコーディングをしており、ある企業では、1時間当たりの生産性は1.38倍になり、1億7,900万ドル分の工数が減っているといった数字もある。しかし、プログラムの数が減ったわけではなく、AIを使うことによって生産性が向上し、より多くのコーディングができるようになったところが重要な点だという。
ChatGPTをはじめとする生成系AIの何が発明的なのか。阪口氏は、「人の意図をある程度理解したように見える挙動をして、そして人の期待値をある程度上回ってくるところだ」という。生成系AIは益々進化し、複雑なこともできるようになってきている。しかし、ChatGPTも人のメッセージが一言でも入らないかぎり動作できないので、ベースとしてその分野のスキルがあるかどうかが重要で、AIを使うにしても人間は学習を続けていかなくてはならない。
また、生成系AIの未来像についてもお話しいただいた。
生成系AIの精度向上における主要作業は、ファインチューニングからプロンプトエンジニアリングにシフトしている。大学でも、個人情報に配慮したうえですべてのやり取りをデータ化し、ChatGPTを大学の新しい教育サービスに使うこともできるし、大学に特化したオリジナルのChatGPTとして育てることも可能だ。
ユーザーはこれまで、情報探索、購買、事務手続き、コミュニケーション、データ分析、学習などのために各種のシステムを利用してきた。今後はChatGPTがこれらのすべての作業を仲介し、すべての行動やコミュニケーションを記録しつつ、適切に過去情報を引き出して支援するという未来像を、マイクロソフトでは描いている。
その先は、プログラム言語と自然言語の変換によって、人はChatGPTと会話し、ChatGPTはコンピュータと会話して操作が完結する。さらには、プロセスを意識することなくChatGPTが目的を達成できるという世界を目指しているという。
生成AIの登場時から、教育分野ではどうやって扱うのか、意見が真二つに割れていました。使いこなしていこうとする意見と使わせないほうがいいとする意見です。かつて、電卓を子供たちに使わせるか使わせないかという議論がありましたが、使うべきところは使い、使うべきではない局面では筆算で計算させるというところに落ち着いています。同様に生成AIの話も落ち着いていくでしょう。
教育の場で生成AIを使わせないということにはなりえません。AIネイティブの子供たちも出てきます。AIに何ができて何ができないかを教員が理解していなくては、AIの強みを生かした教育はできません。具体的にどうすればよいのか。ここでは、生成AIの存在を前提とした授業のコツを5つ紹介したいと思います。
1つ目は、先生が生成AIとはどんなものか理解するということ。ChatGPT等の生成文の形式を理解して知識を更新することが必要です。学生はさまざまな生成AIを使ってきます。それに対抗するには先生が生成AIを十分に使いこなさなければいけません。
2つ目は、自分が出す課題を生成AIにかけて回答を確認してみるということ。課題の出し方を反省したり、生成AIの回答かどうかを推測したりするために行います。
3つ目は、生成AIの弱点を突いて課題を出すということ。生成AIは一般的な質問をすると一般的な回答をします。だから、教室の中でしか成り立たないような問題を出します。「前回の授業での説明を用いて述べよ」、「○○図を用いて答えなさい」、「○○と△△と□□に分けて答えなさい」といった質問です。
4つ目は、下書きや参考文献などの提出を義務化し、最終成果物にたどりつくプロセスも評価の対象にするということ。これまではレポートだけを見ればよかったのに、こうなると先生は大変ですがしかたありません。
5つ目は、学生にプレゼンさせるということ。話しやすさや説明しやすさは話す人に依存するので、学生が自分用のスライドを作るには、それなりのノウハウを身につける必要があります。重要なのは、何を成果として作成したのかではなく、どのくらい理解しているのかということです。これまではレポートや試験の結果を採点して評価してきましたが、これからは学生がきちんと理解しているかどうかに焦点を絞っていくことが求められます。
パネルディスカッション
「生成系AIの進歩と利活用」
コーディネータ
野村 典文氏 (周南公立大学 教授、広島大学 特任教授、CAUA運営委員長)
パネリスト(五十音順)
- 阪口 福太郎氏(日本マイクロソフト株式会社 Education Skills Lead / DX戦略室長)
- 寺澤 豊氏 (伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 AIビジネス部 部長)
- 深澤 良彰氏 (早稲田大学理工学術院 基幹理工学部 教授、CAUA会長)
- 渡辺 健次氏 (広島大学 副学長(情報・IR担当))
本フォーラムの最後のプログラムとして、パネルディスカッションが行われました。CAUA運営委員長の野村氏の司会により、生成系AIにおける教育およびビジネスへの影響について、さまざまなテーマで討論しました。
まず、生成系AIが教育に取り入れられた際の成績の評価基準について、大学の先生方から発言がありました。渡辺氏は、大学の授業は教員が作るものなので統一した基準が適しているかどうかわからないとしたうえで、「教員一人ひとりが生成系AIの理解を深めることが大事。今は教員各自が基準を作り上げている段階であり、もう少し時間がたてば共通認識が得られるかもしれない」との見解を示しました。また深澤氏は、「教育とは何かということが問い直される時代になった。試験やレポート以外の側面も評価することが求められる」と話し、学生の理解度をどうやって引き出すのかを考え直すチャンスであると強調しました。
生成系AIのビジネスや仕事への影響に関しても意見を交換しました。寺澤氏は、「AIビジネスにおいては人材育成の観点で大きく変わる。基礎的な分析がAIで簡単にできるようになると、それに付加価値が付けられる、より高度なアーキテクト能力を備えた人材が必要になる」と指摘しました。一方、阪口氏は、会場の参加者によるベテラン社員のAIリテラシー向上についての質問に答える形で、「生成系AIの可能性は操作を覚えなくていいことにある。AIは人が言葉で指示しないと動かない。経験豊富で説得力のある言葉を使えるベテラン社員はAIを使いこなせるようになるはずだ」と期待を込めて語りました。
ほかにも「生成系AIによる成果物の検出」や「答えを出さないAIと創造的思考の養成の関係」などのテーマで、教育と生成系AIについての議論を深めました。会場の参加者からも、「生成系AIがもたらす学習格差」や「プロンプトエンジニアリングの授業での取り扱い」などの質問が寄せられ、1時間におよぶパネルディスカッションは盛況のうちに終了しました。
クロージング
只木 進一氏(佐賀大学 理工学部 教授、CAUA運営委員)