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イベントレポート

学生の成績評価と教育の質保証 ~ウィズコロナの年間講義を振り返って~

イベントの様子

新型コロナウイルスへの対応から始まった2020年度ですが、この影響はまだしばらく続きそうな気配です。

2020年度の期初は授業を止めないことが重要視され、オンライン授業が始まりましたが、期末におけるテストやレポートでの学修成果の測定(評価)についても、これまでの対面授業とは異なる対応に迫られています。

また、オンライン授業により、これまでの対面型講義では得られなかった授業コンテンツの閲覧履歴や小テストの結果など、様々な学習履歴データが集積されています。これらの教育データを活用しながら、学習者の評価を行い、より教育効果を高める取り組みをご紹介いただき、2年目を迎える教育の質保証について考えます。

開催日時
2021年2月16日(火)14:00~17:00
開催方法
オンライン(Zoom Webinar)
主 催
CAUA

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講演内容

オープニング

斎藤 馨 氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授、CAUA副会長)

斎藤 馨 氏
(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授、CAUA副会長)

斎藤 馨 氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授、CAUA副会長)

講演1

「高等教育における新しい理解度評価の考え方」

深澤 良彰 氏(早稲田大学 理工学術院 教授、CAUA会長)

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深澤 良彰 氏(早稲田大学 理工学術院 教授、CAUA会長)

深澤 良彰 氏
(早稲田大学 理工学術院 教授、CAUA会長)

これまで、大学を中心とする高等教育機関の多くにおいては、学生の理解度の評価方法を重視してきませんでした。ところが、コロナ禍によってオンライン授業が実施され、かつ世界中のオンライン講座が無料で受けられるMOOCが一般化してきました。こうした大きな波によって、大学は新しい理解度評価への早急な対応が迫られています。本日は、理解度評価の基礎的な考え方から、具体的な施策としてのオープンブック方式の試験および学生の相互評価について、お話しいたします。

なぜ評価しなければならないのでしょうか。単に学生に成績をつけなければならないという理由だけではありません。教員にとっては、学生の理解度を確認してサポートし、次年度以降の授業を改善するという意義があります。学生は、自分がどこまで理解したのか把握し、今後どうしていくべきかを考える手がかりにします。組織の観点からは、大学の各科目の質保証あるいは説明責任を果たすために不可欠です。評価はゴールであり試験が終わったあとの最後の仕事ではなく、次に向けてのスタートだと考えなければなりません。

通常の試験では教科書や参考資料を使わずに行われます。クローズドブックと呼ばれる方式です。しかし、オンラインの試験では、そもそも本人が受験しているかどうかの確認も難しいし、学生がインターネットを使用して情報を得る可能性もあるなど、試験環境がコントロールできません。そうだとすれば、参考資料でも何でも使用を許可するオープンブック方式で試験を行えばいい。オープンブック方式のメリットは、丸暗記ではなく、より高い認知レベルの思考を求めるテストが実施できることです。

オープンブック方式をとる場合は、どのような問題を作ればいいかという指針を作らなければなりません。例えばイギリスのニューカッスル大学では、何かについてその背景となる情報を書く問題やデータを読ませる問題、2つの何かを見せて特徴の違いを述べさせる問題などが、典型的な問題となっています。先生は問題を工夫して作成する必要があります。一方で学生も十分な予習をしなければなりません。オープンブックとクローズドブックの成績の間には正の相関関係がある、オープンブックはいい成績をとる学生は下位の学生に比べて多くの予習をしている、といった検証結果もあります。

学生による相互評価も、オンラインでは有効です。相互評価はMOOCの世界において脚光を浴びました。その結果として、次の2つのことが強調されています。1つは、相互評価において評価の明確な基準が示されていれば信頼性があり、教員による評価と同じような結果が出るということ。もう1つは、相互評価すると自分の勉強にもなるということ。

相互評価の際の明確な基準のことをルーブリックと呼びます。「ある課題をいくつかの構成要素に分け,その要素ごとに評価基準を満たすレベルについて詳細に説明したもの」というのが代表的な定義です。ルーブリックを積極的に採り入れた学生による相互評価では、まず先生がルーブリックを作る。学生に課題とルーブリックを渡す。学生はルーブリック、つまり優れた回答例を理解し、それを学習指針として課題に取り組み、学生に提出させ、ルーブリックに従って相互評価を行い、最終的に先生が評価して確認し、その結果を学生に返す。このような手順で進められます。

相互評価をすることによって学習者の主観的な理解度や満足感を高めることができる一方で、うまくやらないと学習者への負担が高くなりすぎるので、そこは注意しないといけないということです。今後ルーブリックに関してやるべきことの一つは、ルーブリックの項目の信頼性と妥当性の確認であり、ルーブリックを改善していく体系というものが必要になってくるのではないでしょうか。

講演2

「教育・学習効果の向上に向けた教育データの利活用」

緒方 広明 氏(京都大学 学術情報メディアセンター 教授)

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緒方 広明 氏(京都大学 学術情報メディアセンター 教授)

緒方 広明 氏
(京都大学 学術情報メディアセンター 教授)

このコロナ禍において、日本の教育のデジタル化の遅れが顕在化しました。一方で、オンラインで受講する学生の状況を把握するために教育データの利活用が大切だと認識されてきました。学生が教材を見たりレポートを書いたりして学習したエビデンスを蓄積することが非常に大事だということと、デジタル環境を使うことによって人間の状況がよく見えて、より効果的に教育・学習が支援できるということがわかってきました。

教育データの利活用に関して、我々はLEAFと呼ばれるデジタル学習環境を開発して研究しています。学生は、普段利用する学習管理システム(LMS)をベースに、我々が開発したデジタル教材配信システムのBookRollを利用して教材を閲覧して学習します。その学習データは成績も含めて全てラーニングレコードストア(LRS)という入れ物に蓄積され、そのデータをダッシュボード等で分析できる仕組みです。学習データを分析してフィードバックし、教育・学習活動にどのような効果が出たかをエビデンスとして共有することに取り組んでいます。

LEAFの中核となるBookRollは、ブラウザを通してデジタル教材を閲覧するシステムで、先生がPDFやパワーポイントのスライド、問題集などをアップロードし、学生はスマートフォンやタブレット、パソコンで利用して学習します。その閲覧履歴がサーバー側に全て蓄積されます。デジタル教材に、重要と思うところは赤、難しいと感じるところは黄色などのマーカーが引けるようになっていて、先生が授業の直前に学生の予習時のマーカーの状況をダッシュボードで確認し、例えば黄色が多く引かれている箇所は難しいと感じている学生が多いので説明を詳しくするなど、実際の授業に反映することができます。

ブロックチェーンを用いた学習ログの連結という研究も行っています。小中高大と進学することを考えた場合、それぞれの学校組織で蓄積された学習データをどうやって結んでいくかが課題です。そこで、各学校のLMSに、我々が開発したBOLL(Blockchain Of Learning Logs)というシステムをプラグインのような形で横付けし、自動的に学習データが連結できる仕組みを作りました。特にコロナ禍では授業ができなかった時期があることを前提に、成績だけでなく教科書のどこまで履修したかという履歴も生かしていくべきだと考えます。

デジタル学習環境の導入によって、教育・学習方法の選択肢が増えました。対面授業とオンライン授業のベストミックスを考えなければなりません。授業ごと、学習者ごと、先生ごとに教育・学習効果を向上させるためのデジタル技術のベストミックスを提示していく必要があります。今までの断片的な過去の事例をエビデンスとして蓄積して、急にこういう授業をしないといけなくなった、などといった状況になった際のレディネスを高めておくことも重要です。

今後、学校内の教育データの収集と分析、いわゆるラーニングアナリティクスの基盤が普及していくことが想定され、成績だけではなくもっと細かな情報が蓄積されてきます。そういったデータをうまく生かしてエビデンスとして共有することが大切です。ただ、早急に結果を求めるのではなく、長い目で見て継続していく必要があると考えています。

講演3

「適応型システムを活用した個別最適な学びの実現に向けて」

小松川 浩 氏(公立千歳科学技術大学 理工学部情報システム工学科 情報メディアセンター長 教授)

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小松川 浩 氏(公立千歳科学技術大学 理工学部情報システム工学科 情報メディアセンター長 教授)

小松川 浩 氏
(公立千歳科学技術大学 理工学部情報システム工学科 情報メディアセンター長 教授)

本学の理工系基盤教育においても、全学的に学習成果を明確にさせることに取り組んでいます。理工系の場合、どうしても知識の積み上げが必要となります。その知識を定着させて活用する。全学のカリキュラムの体系化を図り、学部4年間の教育課程の中で、導入教育をどのように学部共通教育につなげるのか、さらに学科専門教育との接続はどうするのか、そこではどのような教育手法をとるのかといったことを、小規模大学で人的資源も十分ではない中で、コンピュータでできるところはやるという発想で進めてきました。

入試が多様化して学生の能力も様々で、知識積み上げの前提が合いにくいということがありますが、レベル別の反転学習で知識を揃える取り組みを行っています。予習の反転学習はCBT(Computer Based Training)でレベル別の教材や演習問題を作って、知識の定着から活用、発展に連動させます。予習の度合いもレベル判定します。基本的には3週で1単元が終わるカリキュラムを組みます。授業中は一切教えないで、統一化されたワークシートを使って学びます。この授業モデルでは、この単元で学ぶ内容全体を、事前に学生に全部見せて、それぞれができるところまで予習し、学生自身が主体的に反復的に取り組むものになっています。

コロナ以前は、こうした授業モデルを対面中心に構造化し、CBTで予習、対面授業で確認テスト、個人課題、グループワーク、最終の個人課題、そして振り返りという流れで行っていました。コロナ禍で全てオンラインになったあとは、CBTでの予習と同時に、確認テストも自宅でやる。個人課題も先に配布して、できる人はどんどんやってもらう。リアルタイムの授業はZoomを使ったグループワークだけで、グループワークのあとは自分で最終の個人課題と振り返りを行う、というスタイルになりました。結果的にオンラインでは、学生が主体的に動く部分が増加しました。

従来のやり方を完全にオンラインにしたことで、単位の実質化ができてきたと感じています。私が授業で学生を目視している時間は、たかだか30分程度です。しかし、結果的にはテストの点数は変らず、全体の学習量は増加して質も維持できています。グループワークの活動も、TAを配置して誰が何をやっているかを項目ごとに管理できています。予習、講義、復習は流動化していますが、全体としては学習到達目標を達成できました。先生方は共通して、学生に対し自己調整的な学習がうまくできているという印象を持っています。今後も学生がなるべく自分で勉強できるように、声をうまくかけていく仕掛けを作っていくことが重要だと考えています。

パネルディスカッション

「学生の成績評価と教育の質保証」

コーディネータ

  • 小野 成志 氏
    (NPO法人CCC-TIES副理事長、 CAUA監事)

パネリスト(五十音順)

  • 緒方 広明 氏 (京都大学 学術情報メディアセンター 教授)
  • 小松川 浩 氏 (公立千歳科学技術大学 理工学部情報システム工学科 情報メディアセンター長 教授)
  • 島野 顕継 氏 (大阪工業大学情報科学部ネットワークデザイン学科 准教授、CAUA運営委員)
  • 深澤 良彰 氏 (早稲田大学 理工学術院 教授、CAUA会長)

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小野 成志 氏(NPO法人CCC-TIES副理事長、 CAUA監事)

小野 成志 氏
(NPO法人CCC-TIES副理事長、 CAUA監事)

島野 顕継 氏(大阪工業大学情報科学部ネットワークデザイン学科 准教授、CAUA運営委員)

島野 顕継 氏
(大阪工業大学情報科学部ネットワークデザイン学科 准教授、CAUA運営委員)

パネルディスカッションでは、本日の講演者に加えて大阪工業大学の島野氏が参加し、オンライン授業における学生の成績評価と教育の質保証について討論を行いました。その一部をハイライトしてご紹介いたします。(進行はCAUA監事でNPO法人CCC-TIES副理事長の小野成志氏)

――小野:最初にパネルディスカッションから参加いただく島野先生の取り組みをお話しいただきます。

島野:私のオンライン授業の例を2科目紹介いたします。座学系の情報通信ネットワークの授業では、これまで市販教科書と黒板を使ってTCP/IPの基礎を説明していましたが、今年度は黒板の代わりにA4用紙を用いて板書して、書籍の図等も含めて書画カメラで配信し、私の話はGoogle Meetでライブ配信しました。演習系のJava演習では、従来は情報センターの端末を1人1台使って学習していましたが、今年度はGoogle Meetで私の説明を配信し、学生は手元のPCにJava開発環境をインストールして開発を行いました。課題は学内のファイルサーバーにアップロードして提出し、教員はスクリプトでソースファイルを採点しました。

成績評価と質保証については、これまでは2科目とも条件付き参照可のテストを行っていましたが、今年度はMicrosoft Formsを使ったオープンブック形式で何でも参照可のテストを実施しました。授業では、突発的にキーワードを言って、5分以内にフォームにそのキーワードを入力して送信しなさいというような出席確認も試してみました。成績評価についてはアウトカムズ評価で、どんな勉強をしたか、どのくらい勉強をしたか、ということではなく、最終的なテストや小テストの結果がシラバスに書いてある到達目標と照らし合わせて達成されていれば合格としました。

――小野:それではパネルディスカッションに入ります。確かに教員の側からするとオンライン授業での学生の成績評価と教育の質保証をどうするのかは大きな課題となりますが、大学のステークホルダーである学生や保護者においても本当に大学が質保証できているのかと疑問に思っているということが、よくマスコミなどでも取り上げられています。

深澤:早稲田大学にも、授業料や実験・実習費の返還など、いろいろな問い合わせがきています。大学組織にとっても、試験の内容をきちんと説明できることが質保証には重要なことで、それがコロナ禍で浮き彫りになったということでしょう。

緒方:コロナの影響でオンライン授業が一般的になって教育データが集まってくるようになりました。学習到達目標まで到達できたことを判断するための試験や課題が実際に与えられたか、それを学生がクリアできたか、ということも全てデータでわかるようになります。授業のエビデンスとしてデータをとることが大事になってくることは間違いないと思います。

小松川:今年はとにかく授業を途切れさせないという目的で進めてきたわけですが、オンラインで学生が自己調整的に動けるようになって質が上がった授業もあります。自分で計画を立てて授業を受ける、あるいは授業にはない学習リソースを使いながら自分で勉強する、といった人材を育てるという前向きな視点でオンラインを取り入れたい。

島野:大阪工業大学情報科学部は日本技術者教育認定機構(JABEE)の認定プログラムに認定されており、アウトカムズ評価もJABEEの考え方を基準に行っています。コロナ禍でも質を落とさずにやろうという学部の方針があり、それについては精一杯努力しています。

――小野:アフターコロナの大学のオンライン教育には、どのようなイメージを持っていますでしょうか。

深澤:アフターコロナになってみないとよくわからないというのが正直なところです。ただ、『元の木阿弥』に戻ることだけは避けたい。これだけコンテンツが蓄積されたのだから、それは今後も確実に反転学習等に活用していきたい。一方で、対面かオンラインかという判断を、大学として統一的にどうやっていくのかが課題です。

緒方:オンライン授業は、学生にとっては、通学しなくてもよく、ビデオの授業は振り返って何回も見られるというメリットもあります。そういった面からもオンライン教育は残っていってほしいと思います。

小松川:今回大学に蓄積されたオンラインのノウハウを、今後どう生かしていくかということが重要です。そのためにも、大学として得た様々なデータをもっとオープンにしていくべきだと思います。

島野:コロナ禍で、オンラインでできることとできないことが明確になりました。これからの課題は、オンラインでできることをどう発展させていくのかということでしょう。一方で、例えば1時間目はオンライン授業、2時間目は対面授業という時間割を組んでしまうと、学生は1時間目から登校せざるを得なくなる。そういった運営上の課題も見えてきたのではないでしょうか。

深澤:大学としてはもちろん時間割を検討しなければならないし、学内でオンライン授業を受けるスペースを確保しなければいけない。オンラインが増えれば教室が空くので、そこをうまく大学がやりくりすることが重要だと思います。

クロージング

安東 孝二 氏(株式会社 mokha 代表取締役社長、CAUA運営委員長)

安東 孝二 氏
(株式会社 mokha 代表取締役社長、CAUA運営委員長)

安東 孝二 氏(株式会社 mokha 代表取締役社長、CAUA運営委員長)

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