イベントレポート
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、2020年度の大学はキャンパスの閉鎖を余儀なくされ、授業も急遽オンラインで実施することになりました。ほとんどの学生、先生方にとっても初めてのオンラインでの授業であり、先生方やシステムを支える情報システム部門の方々は試行錯誤しながら進めてこられたと思います。授業をオンライン(オンデマンド型、ライブ型)化することにより、教材の電子化や見直しの機会になった一方で、学生とのコミュニケーションや評価方法なども手探りの状況です。
ウィズコロナの新しい生活様式を模索する中で、一部の実験実習は対面で行い、後期の授業に向けては対面授業とオンライン授業と並行して行うという大学もあり、新たな課題が出てきています。前期の授業を振り返り、後期の授業に向けてどんな不安を抱えているか、どのように克服しようとしているか、学生のフォローをどう行っていったらよいか等、現場で取り組む先生方と共に考えます。
- 開催日時
- 2020年9月11日(金)14:00~16:30
- 開催方法
- オンライン開催
- 主 催
- CAUA
講演内容
今回のCAUA FORUMはコロナ禍のため、オンラインセミナーとして開催することになりました。
私は、大学における新型コロナ三段跳び、ということを主張してきました。
まず、第1期、大学における対応のホップの段階として、2020年度春学期の間は、教員・学生が大学に来ることなく、なんとか教育・研究を継続してほしい、普段やっている授業が100だとすれば80でも70でもいい、30や20や最悪の場合に0にはしてほしくない、このために大学として何をすべきかを考え、実行しました。
第2期のステップは、ホップの段階で学んだネットワークの使い方を授業中に活かして、今まで100の授業をしていたとしたら、120にするにはどうしたらいいかを考える段階です。大学は、多様な学生や多様な授業スタイルに対応しながら、どのように教育・研究を向上させていくのかを考えなければなりません。
次の第3期がジャンプで、第1期、第2期の結果を用いて大学における研究・教育のデジタルトランスフォーメーションを起こすことです。最終的に、コロナで大変だったということだけではなく、大学の教育・研究がどれだけよくなったのか、ということを主張できるようにしたいと考えています。たとえば、図書館においては、電子ジャーナルの利用が増えました。出版社と協力してサービスを拡大しましたが、今後もますます、電子ジャーナルの利用は増加する可能性があります。図書館が電子媒体の書籍を購入する場合の費用負担については、大学全体として考えていかなければならない課題だと思います。
広島市立大学にはオンライン授業の全学的なサポートができるような組織がなかったため、情報科学研究科を中心にオンライン授業実施プロジェクトを発足して実施しました。
まずは授業のオンライン実施方針を決め、学生の受講環境の調査を行い、それと並行してオンライン会議システムやLMSなどの必要ツールのマニュアル作成を行いました。どうしてもパソコンや通信環境が用意できないという学生には、貸し出しなどの手配も行いました。動画や講義資料、教材配布、レポート提出、出欠確認などは、全てLMSのWebClassに統一しました。オンラインで履修登録をすると、その履修者情報がWebClassに自動的に反映され、教員は学生に対してWebClassで情報発信をすればよい仕組みになっています。
オンライン授業の実施方法や具体的なツールの使い方などのサポートは、教員向けの支援サイトとヘルプデスクを開設して実施しました。支援サイトには、教員がほしいと思われる情報を掲載していくと同時に、学部ごとに相談窓口を設けて個別の相談にも対応できるようにしました。教員の新たな工夫やちょっとした便利な情報もこのサイトで共有されます。支援サイトもヘルプデスクも当初は教員向けのみでしたが、授業が開始されてからは学生に支援を広げました。
前期で予定したオンライン授業は全て実施できました。今後、全学的にアンケートをとる予定ですが、部分的にとったアンケートでは感想が様々です。学生は、オンライン授業はそれなりによかったと感じているけれど、友達とのつながりなどキャンパスライフの面で不満が残ったようです。オンデマンドの教材をあとから見返したり繰り返し聴けたりするところがよかったという評価もありました。一方で教員の感想では、ゼミ形式の少人数クラスは比較的うまくいったという感想が多く寄せられています。
今回オンライン授業の実施を余儀なくされて、教員もいろいろな工夫をして新しい教育方法を模索することになりましたが、オンライン授業、特にオンデマンド授業は後から講義内容を見返すことができるという点でよかったという学生が意外に多くて、たくさんの気付きがありました。次年度以降もオンライン授業のよいところを取り入れた授業を検討する風潮が学内で強くなっています。大学としても、教室やパソコンなどの機器も含め、オンラインの授業を想定した環境づくりも進めようという話になっています。
一方で、今回はプロジェクトベースで支援体制を構築して、止むに止まれぬ状態でスタートしましたが、組織的に支援できる体制が必要だと考えています。後期も感染防止のためオンラインを主体とし、芸術学部の制作や機材を使用する実験などは教育効果の点から一部対面で授業を行うという方針です。本学においては、この経験を今後の教育スタイルに良い形で取り入れて、新しい教育を実施していこうという流れになっていることを感じています。
講演2
「コロナ禍対応における駒澤大学のオンライン化と今後の課題
ーチャットワーク、スプレッドシート等によるマネジメント改革ー」
青木 茂樹 氏(駒澤大学 総合情報センター所長 経営学部市場戦略学科 教授)
駒澤大学の総合情報センター所長としてオンライン授業に対応する情報システムをどう構築したか、私自身の教育をどう工夫したかを説明します。
1)総合情報センターの対応
総合情報センターの対応としては、まず目標を明確化しました。第一の目標は、授業開始までに1300名の教員が15000名の学生にオンライン授業をできるようにすることでした。教員と学生に提供するオンライン授業マニュアルのサイトを立ち上げ、情報開示を続けました。第二の目標は、2つのLMSをどう組み合わせて活用するかということでした。本学には教務部が管理しているC-Learningと総合情報センターで管理しているYeStudyという2つのLMSがあり、C-Learningはビギナーの教員が、Moodle系のYeStudyは慣れた教員が講義資料やオンデマンドの配信に使うというようにすみ分けました。ビデオ会議システムに関しては、GoogleのG Suiteを契約していたので、Meetに決定しました。
オンライン授業の開始に関して、教員からはオンライン講義はできないorやりたくないとか、Zoomを使いたいなど、様々な要望が出てきます。すべてに対応したいところですが、コロナ禍の少ない人員かつオンラインでコミュニケーションが難しいときには、ゴールに向けてプライオリティを明確にし、業務をスリム化することはとても重要だったと思います。
前期のアンケートの結果を受けて、現在は後期の方法を検討しているところです。学生にはいつでもどこでも見られるということがニーズに合ったようで、オンデマンド配信やビデオ会議の授業が人気でした。また、学生にとって大きな価値を持つ課外授業の復活をどう果たすかということは課題として残っています。
2)私の講義の状況報告
私の講義では、LMSで事前に資料配信して、講義や演習はライブ配信で行いました。G Suiteの活用は極めて有効でした。例えば「流通システム論」では、JamboardというGoogleのデジタルホワイトボードと付箋を使ってグループワークを行いましたが、考えをビジュアルに整理すると因果関係の構造が分かりやすくなって非常に効果がありました。スプレッドシートにワークシートをつくって、コロナ禍で世界の企業がどのような対応をしたのかを43名の学生が共同調査しましたが、1週間で国内外43業種、172社の調査データがありました。スプレッドシートはエクセルの代替と思っていましたが、シェアリングをコンセプトにしている仕組みは有効でした。
3)Digital Transformationと大学制度
社会がデジタルトランスフォーメーションしていく中で、今後のオンライン化と大学制度をどのように考えていけばいいのでしょうか。テレワークやオンライン授業が行われる一方で、やはり人と出会うことによる発見というのも多くあるので、こうした偶発性やセレンディピティが不十分のため新しいことができないという現状があります。企業では、ストレス緩和策としてオフィスチェアの支給や時短制度があり、プライベートではオンラインでの飲み会、ランチ会、雑談など、セレンディピティが生まれない状況をどうにか補完しようという動きもあります。これは大学にもいえることであり、まだしばらく続くかもしれない状況に対し、ソフトやアイデアが足りていません。授業はできたとしても、学生が孤独感をなくし、学校に帰属しているという意識を、どうすれば生みだせるのでしょうか。
都市部への人口集中から地方分散が始まり、地域内経済の循環が進み、地方にとっては追い風になるかもしれません。都心の大学にとっては、どう制度設計するかが大きな課題です。大企業がオフィスを半減する、テレワーク拠点の整備をどんどん進める、といった話題もニュースになっています。企業が経営合理性を重視して組織を変えていく中で、大学はコロナが終わったらただ単に元に戻るということでは、極めて大きなギャップが生まれるという気がしています。大学は文科省のルールで動いていることから、コロナ禍が過ぎたら元に戻るだろうという考えが多いように感じています。このままでは、産学のミスフィットが生まれてしまうのではないかと危惧しています。
まずは、今回のコロナ禍の前の佐賀大学の状況はどうなっていたかについて、少しお話しします。本学では既に、ネット授業と呼んでいるオンデマンド形式の授業が、教養教育を中心に行われていました。同じく教養教育を中心に、時間になると自動的に授業が録画される授業録画システムもありました。本学には大きなキャンパスが2つあり、この間を結ぶ遠隔授業システムもあります。LMSにはWebClassを使っていて、昨年度まではここで資料を提供して確認テストも行っていました。Microsoft 365も使っています。認証システムは、教務システム、人事システムと連携してほぼ自動でIDを作るため、授業開始時には学生も教員もIDが使える状態になっていました。
今回オンライン授業を始めるにあたって、オンライン会議システムとして使用するTeamsの人数の上限が当時150であり、大人数の授業のためにWebexを契約しました。今回追加で導入したのはWebexだけです。
実際の授業では、各教員が自分でツールを選択して行います。学生がいない教室で授業をして授業録画システムで記録して配信する。マイクロソフトのStreamなどでパワーポイントを使いながら説明して撮影し配信する。WebexやTeamsを使って、リアルタイムで講義をする。TeamsやOneDriveを使って資料を配布する。さまざまな形態でオンライン授業を実施しました。私も、Teamsで資料を配布して事前に学生に読ませ、授業時間に質問してもらい、WebClassで確認テストを行うなどの方法で授業を行いました。
つぎに、本学の学生支援について紹介します。まず、学生一人ひとりにチューターがつきます。今年度前期の面談はオンラインで実施し、担当している学生が授業を受講できているかどうかも含めて、一人ひとり確認しています。メンタルの支援も専門の部署もあります。昨年からは人工知能を使ったヘルプデスクが動いており、特に新入生から手続きのやり方などの問い合わせがありました。
今回のオンライン授業で、学生の状況はおおむね順調だったと感じています。授業のアンケートは正式な結果がまだ出ていませんが、教育内容について特にレベルが下がったという評価ではないと聞いています。質問なども活発で、成績がいい学生はよく勉強していたという印象を持っている教員も多いようです。一方で、不安を感じている学生もおり、特に学習意欲が低い学生は途中でついてこれなくなるということもありました。本学では6月末に、実験や実習が必要な授業は一部で対面授業が始まりましたが、遠方から通学している学生の中には、電車やバスで通学することへの不安を感じる人もいるようです。
私が、この半年間オンライン授業を実施して非常にプラスになったと実感するのは、講義内容を全面的に見直したことです。オンラインを意識した結果、内容をかなり減量することができました。また、オンライン授業では学生が自ら学ぶという姿勢でないとやっていけないため、特に意欲のある学生にとってはプラスになったと思います。例えばプログラミングの授業では、画面共有して質疑応答などの対話ができるのが、非常に効果的だと感じました。
式や図を書かせる必要のある授業にはまだまだ工夫がいるところもありますが、オンラインのほうが効果的な授業ができる科目については、今後も積極的にオンラインを活用するべきだと思っています。オンライン授業の積極的な活用が、これから大学として重要なことは間違いありません。それに伴って、学生の学習環境をもう一度見直す必要もあります。本学はBYODを導入するときに、学生が自分でレポートを書いたりできる環境を目的に機材を選びましたが、オンライン授業を受講する機材という観点で少し考え直さなければならないと思っています。そして、学生のコミュニケーションの場をどうしていったらいいのか、学生支援については課題として残っています。一方で、それは大学側が手を出すことなのだろうかという疑問もあり、どんなやり方がいいのか模索していきたいと思います。
Side story
「オンライン面接になって変化したこと」
西村 航(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 人事部人材採用課)
弊社の採新卒用活動では対面を重視していましたが、2月以降のコロナ禍で状況が一変し、会社説明会や面接は全てオンラインで実施することになりました。この夏からインターンシップも初めてオンラインで開始しています。
新卒採用のオンライン化を実行したことにより、大切だと思ったことが2つあります。1つ目は、情報共有です。学生に対して細かく情報を伝えていくことが重要になります。2つ目は、タイムマネジメントです。対面であれば、面接で話が盛り上がって時間が長引くこともあって、次の学生にはその旨伝えて少し待ってもらうこともできますが、オンラインだとPCの前でただつながらないという状況で待機させることになってしまいます。また、オンラインでの面接は、多くの学生に効率的に行えるメリットもある反面、なかなか本音が見えない、フォローが難しい、といった課題もあります。
一方で、オンラインでの採用活動には改善すべき点が多くあります。学生からは、情報共有をする雑談時間がほしい、社員が働く風景や会社内の様子が見たい、といった声がありますが、オンラインではいわゆる遊びの時間が取れません。時間割をきちんと組んで行っている中で雑談時間をどのように作るのか、出社率が現在2割程度という状況の中で、会社の雰囲気が分かるような時間をうまく作れるかどうかは、今後の大きな課題です。
パネルディスカッション
「コロナ禍での大学オンライン授業、この先を考える」
パネリスト(五十音順)
- 青木 茂樹 氏 (駒澤大学 総合情報センター所長 経営学部市場戦略学科 教授)
- 只木 進一 氏 (佐賀大学 理工学部理工学科 教授、CAUA運営委員)
- 深澤 良彰 氏 (早稲田大学 理工学術院 教授、CAUA会長)
- 前田 香織 氏 (広島市立大学大学院 情報科学研究科 教授)
パネルディスカッションでは、本日の講演者がオンライン上で一堂に会し、大学のオンライン教育と大学のあり方について、意見を交わしました。(進行は伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の野村典文・CAUA運営委員)
――このコロナ禍で企業も大幅に変わりました。大学もかなりショッキングな状態になりました。今後の大学の教育形態はどうなっていくのでしょうか。オンライン授業、対面の授業、クラブ活動や友人をつくる場としてのキャンパスライフ、これらが今後どのように変わっていくのでしょうか。
前田:授業だけでなく他のいろいろな活動のために大学に来るというのは今後も変わることはありません。ただ今回、教員も職員もオンライン授業の有効性を学びました。オンラインでどこでも受けられるので、台風の時に休講せずに授業ができました。オンデマンドタイプの授業は、いつでも受講でき、何度も見直すことができ、自分のペースで授業が受けられるので、学生にはかなり好評です。学生が主体的に勉強するという点で、オンライン授業のスタイルは有効です。アクティブラーニング、反転授業に活かせます。ただ、単純に対面の授業をライブの遠隔授業にするということではなくて、オンライン授業の一部の形式が今後の授業のあり方を変革し、より学生が主体的に勉強できる環境を用意することが重要だと思います。
只木:実習を伴う授業ではこれまで、その場で説明して、その場でやらせるという形態でしたが、オンラインでは、前もって資料を読み、実習を行い、本当にサポートが必要な学生に手をかけて、実習を指導することができるようになりました。一方で実験はどうするか。本学は農学部と医学部がありますが、集まる人数を減らすために隔週ごとにしたり、2クラスに分けるという対応にならざるを得ません。そうなると教室の使い方を変えなければならない。教室を新しい実験向きの部屋に変えるなどの対応も含めて実験の科目をどうするかは大きな課題です。
――教育形態が変わると、大学自体が運営も含めて変わってくるのではないかと思います。例えば、地方と東京との差がなくなります。場所的、地理的な差がなくなります。そうすると、大学の垣根を超えて授業が選択できるといったことも起きるのではないでしょうか。裏を返せば、大学の設備や学生の学び方によって、今までよりも大学格差が出てしまう可能性があります。今後の大学運営のあり方はどう変わっていくのでしょうか。
青木:本学は東京という場所に物理的に制約されていて、今は学生もなかなか移動できません。しかし、オンラインが主になればグローバルにいろいろな人たちとアポイントをとって話ができるので、リサーチにしても様々なことが可能になります。これは非常に面白いことになると私は思っています。このコロナ禍で大変ですが、徹底的にポジティブにできることを追求して、強みになることはアフターコロナでも残したいと思っています。
深澤:私は皆さんほど楽観的ではありません。本日のお話は、ネットワークを使ったオンライン授業がうまくいっている、だからそれを残したい、ということでしたが、一般論としては賛成です。しかし、大学は放っておいたらまた元に戻ってしまうと思っています。今回、もちろん学生も大変だったが、先生も多くの人は大変でした。難しいのは先生のメンタリティをどう変えるのかということです。そこについてきちんと議論をしていかないといけないと思います。具体的に各大学に何を残すのか。コロナが去ったあとに、あのコロナは何だったのだろうと思うようなことだけは避けたいと考えています。
クロージング
後藤 滋樹 氏(早稲田大学 名誉教授、CAUA顧問)
このコロナ禍において、大学も企業と同じように強制的なデジタルトランスフォーメーションという状況になりました。学生が自宅でパソコンやタブレットを使ってオンライン授業が画像付きで受けられるというのは、デジタル技術の進歩がここまで来たから何とか乗り切れているのだと思います。
ただ、これはデジタル機器が自動的にやってくれるものではなくて、やはり人材というものが必要です。特にリーダーシップを誰がとるのか、ということが企業においても大学においても大変重要になってきます。また、与えられた機器に適応して、それ以上に使うという点では、若い人の知恵に期待するという面もあります。
大学はコロナが収束すれば元に戻ってしまうのではないかという懸念もありましたが、ぜひコロナという禍が転じて福となることを期待したい。ペストの後のルネサンスとまではいかないと思いますが、パンデミックになると権威が揺らぐという歴史があります。大学においては文科省のしばりが非常にきついと言われていますが、先生方あるいは学生の知恵も生かして、みんなで課題も含めて共有し、大学のほうから提言するようなことができれば大変すばらしいと思います。